大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(ワ)11374号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

三次に公序良俗違反の抗弁について判断するに、賃料の一部である一三万五〇〇〇円を裏の賃料と称し、本件賃貸借契約に関する公正証書や賃料の領収書に明記しなかつたのは、原告の所得を過少に申告し、所得税等の課税の一部を免れる目的でなされたものであることは既に認定した通りであるところ、被告は裏の賃料の一三万五〇〇〇円の支払合意部分は民法九〇条に違反し無効であると主張するので検討するに、右合意は、本件賃貸借契約に基づく賃料の総額を約定した上で、その内の一部について前記目的で公正証書及び賃料の領収書に記載しないこととしたものであつて、右のような脱税目的の裏処理は国税徴収法により禁止されている行為であり、また、社会的批難に値するものであることも否定できないが、しかし、右法令が直接に禁止し、また、社会的批判を受けるのは原告の脱税行為であつて、賃料の定め自体は何んら禁止され、また、批判を受けるものではないから、その定め自体の私法上の効力をも否定するには慎重に検討しなければならない。

しかして、この私法上の効力の判断にあたつては、単に、脱税に対する公共的、社会的批判を抽象的に評価するのみでなく、その脱税の方法、程度に対する具体的評価を加味する外に、裏処理の合意を私法上無効とすることによつて生ずる原、被告間の本件賃貸借契約における公平性の維持についても検討すべきであり、これを本件についてみると、前記認定の裏賃料とされた額が左程高額でないこと、若し、右賃料部分の合意を無効とすれば、賃借人である被告において右賃料部分の支払義務を免れることとなり、本件賃貸借契約における対価的均衡を失する不合理な事態が生ずるから、右合意の私法的効力まで無効とするのは相当でない。したがつて、原告の脱税行為に対しては税法上の罰則をもつて臨む外はないと考えられる。

(山口和男 佐々木寅男 藤井敏明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!